「事実」と「感想」を分ける

日本語では、1つの文にいろいろな情報を詰め込んでいても、かえって単純な文よりはむしろ名文であるように思われています。それはそれで日本語の特徴としてよいと思いますが、英語で簡潔に物事を述べる場合は、1つの文には1種類の情報だけを入れるようにしてください。

日本語では接続詞を使って続けることができるような、2つの異なったあるいは独立した内容は、英語では1つ1つの文として独立させてピリオドで分けて順番に述べるしかありません。

異なった内容と言えば、ある事実とそれに対するコメントも、英語的に見れば異なる視点の問題なので、日本語のように一緒にすることは避けてください。私がよく引き合いに出す次の文で、私の言わんとするところをくみ取ってください。

Jane is a beautiful music teacher.

これは文法的には少しも誤りではありませんが、英語の感覚で見ると2種類の情報が入っています。

"beautiful" という形容詞はこの文を述べている人の気持ち("comment")であるのに対して、"music" は事実("fact")ですね。

このような内容の時、英語が母語の人間ならまず、  
June is a music teacher. または、  
Jane teaches music.  

などと事実を述べてから、  
She is beautiful. あるいは、  
She is lovely.  

感想を述べるはずです。

Plain English11

例題故郷の池や川は昔と少しも変わっていないのに、何となく貧弱な印象を与えるのは、一体どいうわけだろう。
×Why on earth do the ponds and rivers in our home town seen unimpressive to us, even though they have not changed at all?

例文を見てみましょう。日本語では自然な文章でも、それをそのまま英語にすると大変不自然な文になってしまうことがよくあります。これもよい例です。

英語のロジックでは「少しも変わっていない」と言っていながら、「貧弱な印象」というのはまったく妙な話になってしまいます。

英語感覚で見てみましょう。

英語のロジックでは「変わっていない」の反対は「変わっている」→「違っている」ということです。「貧弱な印象」と言うと、その先の「自分の気持ち」に言及することになってしまいます。

また、"why on earth 〜" は非常に強い言葉ですので、ここで使う必要はないでしょう。

日本語のアイディアを表現しましょう。

この日本文は、「故郷の池や川」は「変わっていない」が、「自分」にとっては「変わって見える」ということなのでしょう。

それならば、まずは、「変わっていない」という事実を言わなくてはなりません。それから自分の感想を続ければいいのです。

例題故郷の池や川は昔と少しも変わっていないのに、何となく貧弱な印象を与えるのは、一体どいうわけだろう。
Plain EnglishThe ponds and rivers in our home town have not changed at all. But I'm wondering why they look different to me.

Plain English12

例題電話が現代生活に欠くことのできないものであることは否定できない。
×There is no denying that the telephone is indispensable to modern life.

英語感覚で見てみましょう。

「現代生活」を "modern life" としていますが、「生活」と言いたいのであれば "modern living" のほうが適切です。

また、会話で "there is 〜ing" の文型は普通は使いません。この場合は、"You cannot 〜" と言う方がより自然です。

そしてまた、事実は事実として先に述べて、それからそのことに対する意見を述べるというように、2文に分けるほうがより自然な英語になります。たとえば "It is impossible to do so." というような文も、"It's very tough. I cannot do that." と言うほうがより自然になるということです。

例題電話が現代生活に欠くことのできないものであることは否定できない。
Plain EnglishThe telephone is indispensable to modern living. You cannot deny that.

Plain English13

例題最近の生活水準の向上には目覚ましいものがあるが、一方このような世の中に生きがいを感じない人も多い。
×The recent rise the standard of living is amazing. However, there are many who don't think such a world worth living in.

例文を考えてみましょう。

"recent rise" を "amazing" で形容するのは英語的感覚から見るとおかしな英文です。"amazing" は驚嘆を表す非常に強い意味をもった語です。一方 "rise" はただ単に下から上の動きを示す語です。

もしこの "rise" に、どのように上昇したかを表す語でもついていれば、その事象全体に対して "amaze" する気持ちはわかります。たとえば "A sharp rise is amazing." などです。

しかし例文では "recent" という時間を示す形容詞がついているだけなので、英語としい不思議な感じがするわけです。

日本語のアイディアを表現しよう。

この日本文で「生活水準の向上」(事実)と「そうは感じていない」(感じ方)を並べるのであれば、事実と感じ方の対比が出ます。つまり、事実としての「生活水準の向上」と、人々の感じ方として「そうは思っていない」ということの対比です。そうでなければ、「生活水準は向上した」と「(何を目標に生きるかという)生きがいがない」と二つの事実を並べるだけになります。

まず対比で考える場合ですが、この場合「生活の向上」の部分は "The standard living (living standards) has greatly improved (improved a great deal)." と言うべきです。

その後で "People don't feel that way." とすれば、対比でわかりやすく言うことができます(1)。

「生きがい」「生きるかて」という意味では "niche" という英語があります(2)。または "something to live for" という表現も使います。

2つの事実として述べるのであれば "Few people have something to live for." と言えます。(3)

例題最近の生活水準の向上には目覚ましいものがあるが、一方このような世の中に生きがいを感じない人も多い。
Plain English1The standard of living has greatly improved. But people don't feel that way.
2The standard of living has greatly improved. Few people have found their niche(in life).
3The standard of living has greatly improved. Few people have something to live for.

Plain English14

例題雨が降ったので、私は外出することができなかった。
×The rain prevented me from going out.

英語感覚で見てみましょう。

"prevent" の用法を覚えさせる、有名な例文のようです。もちろん文法的には間違いありませんが、"prevent" には "stop" の強制的なニュアンスがあります。

英語感覚で考えてみると、「雨が降っていると、どうして外出できないのだろう」という疑問が生じさせる不思議な文章になってしまいます。傘やレインコートがあれば、雨が降っていても問題はないはずですから。

この日本文はむしろ、「雨が降ったので、外出する気がなくなった」という気分の問題として意味をとるべきでしょう。その場合には "feel like" という表現が使えます(1)。

また「家にいたかった」と表現する方法もあります。(2)。

例題雨が降ったので、私は外出することができなかった。
Plain English1It rained and I didn't feel like going out.
2It rained and I wanted to stay home.

Plain English15

例題日本人は冬が寒い、夏が暑いと始終文句を言いながら、日本の風土に断ち切れない愛情を感じている。
×The Japanese are always complaining about winter cold and summer heat、but they are deeply attached to the climate of their country.

例文を見てみましょう。

「日本の暑さ、寒さ」を言っているので "winter cold" や "summer heat" には "the" をつける必要があります。

また "The Japanese " では「日本人全員」のことになってしまうので、"Japanese people" としましょう。

英語感覚で見てみましょう。

この例文の「言いながら」の部分を "but" を使い逆接として述べていますが、英語のロジックでは逆接としてとらえるには無理があります。「冬が寒い、夏が暑い」と気候のことを言うのが風土への愛着の表れである(順接)ならわかりますが、「文句を言う」ことと「愛着を感じる」ことを逆接でとらえると不思議な感じになってしまうのです。

この場合は「...について話す」と「〜に愛情を感じている」と2文に分けて、順接で表すべきです。

例題日本人は冬が寒い、夏が暑いと始終文句を言いながら、日本の風土に断ち切れない愛情を感じている。
Plain EnglishThe Japanese are talking about the winter cold and summer heat. That means they are deeply attached to the climate of their country.

Plain English16

例題今年の夏は例年になく暑い日が続いた。そのおかげであまり勉強が身に入らなかった。
×It was unusually hot this summer. So I did not apply myself to my studies.

例文を考えてみましょう。

辞書には "apply oneself to 〜" (〜に専念する、打ち込む)と載っていますが、かなり固苦しい感じのする表現です。"apply" は、何かを「当てはめる」「応用する」という場合に使います。たとえば、「彼の理論をこれらに当てはめる」という時に、

We apply his theory to this.

というように使います。

また、"studies" では「(専門的な)研究」という意味になってしまいます。 例文の「勉強」という意味では数えられませんので、この場合は "study" となります。

英語感覚で考えてみましょう。

日本人はとかく "so" とか "and" など接続詞を多用する傾向がありますが、ここでは「夏の暑さ」と「ブラブラした」ことを述べればよいので、"So〜" は不要です。

日本語のアイディアを表現しましょう。

「例年になく暑い日が続いた」というのが「非常に暑かった」ということであれば、"The summer heat was killing this year." という表現がピッタリです。

「勉強に身が入らなかった」というのはつまり「ブラブラしていた」という意味ですね。英語では "goof around" という表現がありますので、これを使うと日本語のアイディアが伝わるでしょう(1)。あるいは夏休みの話をしているのでしたら "idle away" という表現が使えます(2)。

例題今年の夏は例年になく暑い日が続いた。そのおかげであまり勉強が身に入らなかった。
Plain English1The summer heat was killing this year. I was just goofing around.
2The summer heat was killing this year. I was just idling away the summer.

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このページはケリー伊藤著「使える英語へ」(研究社出版、1995年)から抜粋したものです。

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